優しいなんて、もんじゃない



自嘲気味な微笑を浮かべながら、弥生さんは無意識なのか。ぼそりと独白に呟いた。



『今更って、感じなのよねー…』



『尼崎さん?』

『…嗚呼、ごめんごめん。』



結局、その問いかけに弥生さんが答えることはなかった。河井さんもそれからすぐに帰って、店内には私と弥生さんだけになった。


チラリ、横目で弥生さんを見上げると。普通に絡まってしまう視線。




『河井さん、完璧酔ってたわねー。』

『…うん。』

『……ほんと、』



゙未練がましいったら、ないわ。゙



そう呟き、ウイスキーの注がれたグラスを持ち上げ中の液体を飲み干した弥生さんに私は何も言えなかった。聞けなかった。




―――きっと、弥生さんにとってそれは忘れられない時間なんだと思ったからだ。






――――滝さんが浮かべた笑みは、弥生さんが浮かべたそれと酷似している。



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