優しいなんて、もんじゃない



滝さんは苦痛に歪む顔を隠すように俯いて「すみません」と謝る。


弥生さんも唇を噛み締め、震える声で「ごめん」と謝罪を口にする。




2人が会話を交わした本の数秒で一気に重たくなる空気に、私はどう対応すればいいのか。



先程の会話の中に、滝さんが声を荒げてでも弥生さんに伝えたい大きな想いがあった気がした。


実は、見えていた。泣きそうな顔をして、ピアノを弾く滝さんを見つめる弥生さんが。



滝さんの言葉を遮った弥生さんの、強く保ってきたものが揺らぐような。今それを必死になって隠しているような。


嗚呼、そうか、




「(おかしいとは、思ってたんだけどさ。)」



弥生さんはピアノなんて弾かない。習ってなんていなかったし、私には無理と笑ってたから。


だから、初めて弥生さんの店に訪れた時疑問に思った。



どうして、ピアノがあるんだろうかと。



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