優しいなんて、もんじゃない



アンタのピアノだ、と前に弥生さんは言ったけど。

私が弥生さんの店でバイトをし始めたのは、ここが出来て暫くしてからだし、たかがいとこがピアノをしてた位でこんな大きなピアノを置く訳がない。



何か理由がある、そう思ってた。このピアノは、私のために置かれている訳じゃないと思ってた。





―――この、ピアノは




「(滝さんを想って、ココにある。)」



今、直感的にそう感じた。いや、多分間違ってはいない。


このピアノを通して、弥生さんは滝さんを見続けている。




「…それじゃあ、俺は帰ります。」

「……。」

「……優ちゃん、返事考えておいてね。」

「あ、はい…。」



君の才能が眠ったままなのは、勿体無さすぎるから。

そう囁いて微笑み、滝さんは一度弥生さんへと小さく頭を下げて店を後にした。



静まる店内には、何時の間にか私と弥生さんだけになっていた。


他にいたお客さんは、重たい空気に耐えきれなくなったのか。カウンターにお金を置いてそそくさと店から出たらしい。



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