優しいなんて、もんじゃない



どれくらい、お互いに口を開かずにいたのか分からない。重た過ぎる沈黙を破ったのは、弥生さんの盛大な溜め息だった。


ゆっくりと、ピアノの位置から彼女へと視線を送る。




「ほんっと…、参っちゃうわね。」

「…弥生さん、」

「……菊のあんな顔、二度と見たくなかったのにさ…。」



世の中、思い通りには進まないものよね。


そう呟いた弥生さんの瞳には悲しげなそれと後悔しか映っていなかった。滝さんと弥生さんの何かは、過去に一度解けてしまったらしい。




一度解けてしまったものは、またもう一度、結び直すのは難しい。


結ぶより解く方が簡単だから、手放す事なんて容易いのだ。




だから、後々想うことが山と出来る。

戻りたいと願ってみても、その想いは伝えられないから、手を離しちゃいけない。



弥生さんにもきっと、何か事情があったんだと思う。それでも、多分彼女は過去に滝さんの手を離したのだ。



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