優しいなんて、もんじゃない



「菊の才能は世界に認められ始めて、私なんかが隣に立っていられる存在じゃなくなったわ。」

「、」

「近くにいるのに、遠すぎて……、ううん、違うわね。」




弥生さんは、ゆるゆると首を振って嘲笑にも似た微笑を零した。


ウォッカなんて、アルコール度数の高いお酒を弥生さんは少量ずつぐっと飲み干して眉を顰める。



少しだけ頬を赤く染めた弥生さんを見つめながら、その先の言葉を待つ。


ふーっと長く盛大な息を吐き出した弥生さん。




「デカくなる菊の存在から、私は逃げた。」

「……。」

「世界を前にする菊の才能が私の為に枯れるなんて、耐えられなかった。」




菊の隣に立っていられるほどのモノが、私にはなかった。


そう、震えている声で呟いた弥生さんの手から滑り落ちたグラスが、ガシャンと虚しい音をたてて床の上で割れた。



店内に広がる沈黙の重さが私の口を閉ざさせる。静かに涙を流す弥生さんの姿を初めて見た。




後悔と自分の弱さを露わにする彼女を、初めて見た――――。



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