優しいなんて、もんじゃない
意味が分からない、と毒づこうとした私の言葉を遮るようにワゴン車の後部座席のドアが中側から開けられた。
ピタリ、動きを止めた私の目に映る人物に。私は心底安堵していた。まあ、言わないけど。
「やっほー、優。」
「ハァイ、優ちゃん。」
後部座席に乗っていたのは、グレーの帽子もマフラーも、サングラスもしていないユウ。運転席から顔を覗かせ、指をひらひらと降っているのは美月さん。
呆けてしまっている私の背を無遠慮に押す藍に若干よろけながら、車のドアの前まで歩み寄る。
視線を爪先から浮上させれば、当然ながら奴の顔がある訳で。
ん?と、こてんと首を傾げゆるく微笑むユウを何となく睨んでしまう。
そんな私の後ろから、盛大な溜め息が聞こえゆったりとした動作で振り返った。
そこには、不機嫌に顔の色を染める藍。
「んだよ、無理とか言っときながら美月来てんじゃねーか。」
「仕事に空きが出来たのよ。あんたじゃ良い返事なんて貰えないでしょうしね。」
意地悪く笑う美月さんに、藍は舌打ちをしてそっぽを向くだけだった。