優しいなんて、もんじゃない



と。


「ゆーう。」


やけに甘ったるい、ふわふわしたような声が私を呼ぶ。

視線を向ければ、それは当然ながらその端正な顔を惜しげもなく露わにしているユウで。




「…何。」

「藍なんかばっか見てないで、俺見てよ。」

「嫌。」

「……。」

「……。」

「…優、やだ、ダメだってそんな二重人格…!」

「おいボケ。変な意味で受け取ってんな。」




何をどう聞き取ったのか理解し難。おかしな妄想をしてくる馬鹿に、今のはお前の言葉への気持ち悪さだと視線で伝えようと試みる。



が。


良い意味でポジティブ。悪い意味でドMなこの男には、一筋縄ではいかないらしい。


「やっと見てくれた」とか訳分からないことをふにゃりとした笑顔で囁かれた。




――嗚呼、腹立つな。


だらしないような笑顔でも、こいつがすれば全てが整って見えるのだから。

本当に、この世は不平等だ。




じ、と鋭い視線でユウを見つめていれば。運転席から私を呼ぶ美月さんの声が聞こえ、視線を向ける。



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