優しいなんて、もんじゃない
は?なんて間抜けに思わず聞き返してしまった私。
「だからー」と再び何か言おうとするユウを睨みつけ、空気読めと言わんばかりにその頬をひっぱたいてやった。
車内にやたら木霊する痛快な゙パーン!゙という音に、ミラーを通して驚いた美月さんと目が合った。
藍なんて一瞬吃驚したように目を見開いたが、次の瞬間には吹き出して大爆笑だ。
頬を両手で押さえて、混乱が窺えるユウに抑揚のない声音で言い放つ。
「羞恥を知れ、ド変態M野郎が。」
「ゆうー…。」
「次なんか言ったら、金輪際アンタとは関わらないから。」
「……。」
最後の言葉が効いたのか、それっきりユウは大人しく黙り込んだ。
車内には、今だクツクツと喉奥で転がすようにして笑う藍のそれだけが小さく響いている。
チラリ、隣に座るユウを横目で盗み見れば。あちらも私を見ていたようで、ばっちりと視線はかち合ってしまった。
やけに、挑発的。けれど妖艶で凄艶で、酷く甘ったるいユウの双眼が私を映す。
それが妙に気恥ずかしくて、自然現象のように赤くなる頬を隠すよう、顔ごと視線を窓の外へ移した。