優しいなんて、もんじゃない
PM 23:16「忠告」
若干足早に、藍を追い抜きながら数メートル先で何処か怪しげにうすぼんやりと浮かび上がる自動販売機に向かって足を運ぶ。
自販機の前でどれにしようか考えていれば、隣に並ぶ私より随分と身長の高い藍。
見下されてる感じがして、こいつの隣は好かない。
それを言うならユウも高身長だし、以前みたいに視線を私より下にしようとする事は無くなったから藍と同じ筈なんだけど。
「(何か…、ユウは、違うんだよねー…。)」
アイツの目は、私を馬鹿にしない。
何時だって、どんな表情をしている時だって温かい。
こっぱずかしい台詞で表せば、それは太陽みたいで。
私がいくら冷たああしらってみたって、その瞳が曇ることはない。何時だって笑っている。
…まあ、それを悪くとればドMって表現になるんだけど。とにかく、藍とユウは違うということだ。
私はミルクティーを、藍は缶コーヒーを買い(勿論藍の奢りで)車の通りが少なく静寂とした夜道に2つのプルタブを開ける小気味良い音が響く。
そっと口付けたそれは、ホットで。甘い香りと体を芯ごと温める優しい味にいつの間にか、自分自身気付かぬ内に張っていたらしい緊張が少し緩んだ。
最近は、色んなことが積み重なるようにおこって起こって酷く疲れていた。
弥生さんとの会話でさえ、滝さんが絡む度にどこか気まずくて。心が休まることがあまりなかったから。
事実、こういう時間がなかなか有り難かったりする。