優しいなんて、もんじゃない
綺麗に孤を描いた唇は、やはり妖艶だった。
楽譜を見ればそれはいつも弾いているジャズではなく、おそらくJポップ系のバラード調の曲。
バラードだと分かったのはテンポがゆったりとしていたから。
「……誰の曲?」
「ん?俺の。」
「………あんた、歌手?」
「はは、違うよそれ、趣味みたいなやつ。」
おどけたように笑う男を見下ろし、楽譜の上に流れる歌詞を目で追っていく。
ありきたりなバラードってかんじもするんだけど。何かが違う気もする。
上手く説明することはできないけれど。
「…練習、してみる。」
「あ、じゃあ待ってるー。」
楽譜を持ってグランドピアノへと歩む私の背中に飛ぶ、ロートーンの嬉々とした声。
振り返って見れば、カウンターに背中を預けグラス片手にこちらを見ている。