優しいなんて、もんじゃない
「優、やっぱ最高!」
弾き終わってからの男の第一声は興奮を抑えきれないようで。
その証拠に、男は私を背後から抱き締めてきた。無論、顔は見えない。
カッと頬に熱が集まるのが分かる。
この男に興味があるとかではなく、誰だって異性から抱き締められればこうなるだろう。
ましてや私なんて恋愛経験は皆無。当たり前の反応だ。
「は、はな…せ!」
「いい!めっちゃいい!」
「わ、分かったから離れろ阿呆ッ!!」
肘を思いっ切り腹に叩き込んでやると、男は小さく呻き声を上げよろめきながら離れる。
「優さ、大学生…だよね?」
「……そうだけど。」
「音大?」
「いや、普通の大学。」
「ピアノってまだやってんの?」
「高3で辞めた。」