優しいなんて、もんじゃない
どん引きする私は関係ないらしく、男はにこにこと多分笑ってる。
斜め上から口元しか見えないから、口角がなんとなく持ち上がってるのか?ぐらいにしか分からない。
何だか、不満だ。
「……あ、」
「…どうしたの?」
「俺、もう行かなきゃ。」
腕時計を確認した男は、慌てたように立ち上がった。目元は、見えたようで見えなかった。
私が、瞬時に視線を逸らしたのだ。意味が分からない。
これも、何となく。逸らさなくちゃいけない気がしたからだ。
「これ、御代。弥生さんに美味しかったって伝えて。」
そう言って渡されたのは1万円札。たかがカシスのカクテル一杯に1万円は払いすぎだ。
足早にドアへと歩く背中を呼び止めようと、意味なく空中を手で掴む。
こんなん、ぼったくらもいいとこ。弥生さんに怒られてしまう。