優しいなんて、もんじゃない
男こと、ユウは。昨日みたいにひらひらと指先だけを揺らして半分ドアの向こうへ身を滑らせると。
帽子の鍔のせいで目が隠れてしまっている顔を覗かせて一言。
「また、来るね。」
そう、囁くような甘い声を残して出て行ってしまった。
私の右手には1万円札と。反射的に掴んだのか、左手にはユウの曲の楽譜が握られていた。
―――アイツは、何者だ?
不思議や疑問は今日ユウの歌声を聴いてからもっと大きなものになった。
次来たときには、店内では帽子を脱げと言ってやろうか。まあ、アイツはきっと脱がないだろうけど。
腹が立つから、一応チャレンジだ。
「……でも、」
あれは多分もない、最早絶対。美形に違いないだろう。鼻から下しか見えないが、それだけでも整っている。