優しいなんて、もんじゃない
黒い椅子を自分の座りやすい位置に調節し、頭の中にある幾度となく弾いた曲のメロディーと五線譜を駆ける音符達を思い浮かべる。
白と黒の鍵盤に指を乗せ。弾き始めたのは結構有名なジャズソング。
そう、私が弾いている楽器は店内のどの位置からでも見える場所にある大きなピアノ。
5歳から高校卒業まで習っていたピアノは、まあまあの腕だと思う。
――――ここは、いとこが経営しているバー。
いとこというのがさっき私の名を呼んだ背の高く綺麗な女性のことである。
二曲ほど弾き終わり、まばらな拍手がおきる中再び叔母の横に戻りエプロンを付ける。