優しいなんて、もんじゃない
美月さんは、私の目の前で立ち止まるとショップ袋を地面に落とし空いた手で私の両手を握った。
え、何か目が光ってる…。
「優ちゃんってばいつ見ても綺麗ねー!無駄がない!」
「…お世辞ありがとうございます。」
「謙遜する必要ないッ!」
顔の横で親指をビシッと天に向けて突き出した美月さんは、ニッコリと無邪気に微笑んだ。
―――まあ、後になって考えてみれば。
この人との出逢いが、私の人生ってやつを大きく変えてたりする。
「美月さーん、どうしたんですか?」
「お、菊。ごめんごめん。」
「いや、別にいいんですけど。…で、この子は?」
どちらかと言えば、まあ、へりくだった物腰で言の葉を紡ぎながら。
私と美月さんの元へ歩み寄ってくるその男から、目が離せなかった。
何故なら、
「…え、…瀧、菊名?」
私の、憧れるピアニストがそこにいるからだ。