優しいなんて、もんじゃない
生で見るのはこれで2回目だ。いやでも、こんな間近なんかじゃ見れるわけもなかったし。
第一、彼を見たのは大きなコンクールでだったから当然である。
ユウも長身な方だけど、彼だって負けていない。
黒のスキニーに長い脚を包み、爽やかさを醸し出す黒のTシャツに白シャツを合わせている彼。
身長は裕に180はあるだろうし、少し遊ばせた髪に似合う端正な顔立ち。
嗚呼、これは夢か現実か。夢なら覚めないで。
私はもう一度、確認するように彼の名を口から音にした。
「…瀧、菊名…」
「え。俺のこと知ってんの君?」
「ほ、本物…?」
「うん?」
こてん、と小首を傾げて頷いて見せたその人物。
瀧 菊名《タキ キクナ》は驚きで瞬きしか出来ない私から一度視線を逸らして美月さんを見下ろす。