優しいなんて、もんじゃない
どういう意味だろう?
何をそこまで断定できるのかと考える前に、瀧さんの手が私の手を優しく包んで握った。
あの瀧菊名の手が、私の手を握っている今の状態は緊張を通り越して失神しそうだ。
「ゆう、なんて書くの?」
「…優しい、の、優です。」
「そう、…優、ね。あー美月さん。」
「なーにー?」
「今晩、弥生さんのバーは開いてますか?」
その問い掛けに、美月さんは小さく笑うと瀧さんの肩をパシンと軽めに叩いて。
「あそこは大体、年中無休。」
「そうですか。」
「優ちゃんのピアノ演奏は、20時と21時の2回。…ねえ菊。」
゙アンタに任せたい。゙
゙言うと思いました。゙
そんな意味深な会話を交わした二人は、同じタイミングで私へと視線を定めた。
「じゃあ、また今晩。」
ひらり、指先を振って踵を返した瀧さんと。
笑顔で手を振る美月さんの遠ざかる背中を私は見つめるだけで、頭は直ぐに現状理解を出来なかった。