秘密のキスをしたとしても。
「…そ、うなんだ。…あ、何か手伝う…」
精一杯の笑顔を作り、テーブルに置いてあった野菜を水で洗った。
お兄ちゃんの隣に立つなんて…、さっきまでの自分は思っても見なかっただろう。
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと心配してしまう。
「今日は花の大好物なシチューだぞー」
曇りのない笑みで、鍋の中をおたまでかき回すお兄ちゃん。
遠慮がちにそっと覗くと、グツグツと煮だっている鍋の中には、本当に大好物なシチューが入っていた。
「わぁ…。美味しそう…っ」
心の底から無意識に出てしまった言葉。
そんな私を見てお兄ちゃんは嬉しそうに笑った。
一気に私の顔が赤く染まっていくのがわかる。
ずっと…、ずっとシチューが大好物だなんてここ最近言ってなかったのに…。
覚えていてくれたんだ──。