秘密のキスをしたとしても。


「お父さんもシチューが好きだったわね。花と同じように」


「…うん」


大好物のシチューを口に運びながら私は昔の光景を思い出す。


お父さんがまだ家にいた頃、晩御飯は何がいい?とお母さんに聞かれると、私とお父さんは必ず『シチュー』と答えていた。


そんな私達を見て、お母さんとお兄ちゃんはブーイング。


──この時は、すごく幸せで、この幸せがずっと続くと思っていたんだ。



お父さんのガンがわかったのはもう末期の時で、余命も決まったくらい遅い発見だった。


最期の時、お父さんは『母さんのシチューがもう一度食べたい』と、言いながら息を引き取ったんだ。


だからこのシチューはお父さんとの思い出の味なんだ。


    
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