秘密のキスをしたとしても。


そんな私の大袈裟な反応にお母さんはまたため息を吐いた。


「昨日夕飯の時に言ってたじゃない。お兄ちゃん、部活の練習の一環であんたと同じ山登るって」


お母さんはやれやれ、と飽きれた表情を見せ、部屋を出て行った。


私は昨日の夕飯の事を思い出していた。


昨日は…、ちょっと頭痛くてお母さんとお兄ちゃんの会話が全然入ってこなかった…。


一年から陸上部だったお兄ちゃんは、全国に名前が知られているくらい有名な選手なんだ。


……お兄ちゃんと話さなくなってから、お兄ちゃんの走る姿、一回も見てない…。


中学の頃はいつもお母さんと応援しに行って、走っているお兄ちゃんを見てキャーキャー言っていただけだけど。


今思うと、まるで風を切るような、風を抜くような綺麗なフォームに速さ。


お兄ちゃん自体が風になっているようで、それに密かに感動したのも覚えている。



    
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