秘密のキスをしたとしても。
見たことのない傘に私の心臓がドクドクと脈立つように跳ねた。
男の友達の────…ではないよね。
「その傘…誰の?」
直接聞くつもりは無かったのに口から勝手に言葉が出てしまった。
私の質問に少し目を見開いたが、目線を傘に向けながらお兄ちゃんは口を開く。
「これ?これはマネージャーのだよ。二個あるからって貸してくれたんだ」
「そうなんだ…っ!」
「でも練習中に雨降ってきて少し濡れたから着替えて来るわ」
「う、うん!わかった」
そう言ってお兄ちゃんは二階へと消えていった。
お兄ちゃんの言葉を聞いて安心。
…なんか少し嫌な予感がしたから…。
自分の勘違いでよかった…。
ふぅ、と深いため息をついて私はリビングへと戻った。
傘立てに刺さっているピンク色の傘を横目で見ながら──。