恋の施し


「あぁ、やっぱ響花とこうすると落ち着く。やっぱり好きだ」



「こら、遊び人。
そう軽々しく周りが聞いたら誤解すること言わない」



別に変な意味はないと分かっているのに私の胸がおかしくなってしまうから。
あまり不用意に言わないで欲しい。…やっぱり自分は郁にこんな事思うなんてやっぱりおかしい。
これじゃあまるで……いやいやいやいや無い無い。
私が郁を…なんてあり得るわけがない。


だって私には楓が居るし。郁に対するドキドキと楓に対するそれは全然違う。

楓の前だと何を話して良いのか分からなくて。それでも何か話したいけどやっぱりダメで。そんな私を見て楓が優しくフッと微笑むと心が温かくなってドキドキと感じる。


だけど郁は心臓が壊れそうなくらいドキドキして。こんなにバクバクするのは…違う。だってこんなに心臓がおかしくなるのはまるで“あの時”みたいだ。
郁は“あの人達”とは全然違うって分かるけど、でも。


じゃあどうして私の心臓はこんな症状が出るのだろう―――?




「……分かってる。
2人だから大丈夫だ」




いつも鋭いはずの郁は切なげにそう答えるだけで私の異変を何も指摘してこなかった。この分だと私の変な感情には気付いていないみたいだ。


私はこっそりと安堵のため息を吐く。
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