恋の施し


「――…やっと私の前で泣いた」




早く止めないと…と目を懸命にこすっている私にかけられた言葉は、ひどく優しいものだった。




「えっ――…?」




「中学の腐れ外道の時だって、目にいっぱい涙ためてたけど、決して涙はこぼさなかったよ」




…そう、だったっけ…?


でも言われてみてそう言えばと思い返す。


なんだか涙を零したら負けた気がして、絶対泣きたくないと無意識に思っていたのかもしれない。





「それで、約束って何なの?」




雪音が私の頭を撫でながら優しい声音で聞いてくる。

それによって幾分落ち着きを取り戻した私は、少し詰まりながらも雪音に伝わるように大切な宝物の約束を答える。




「私が…ずっと郁の傍にいるかわっ…りに…
郁が…私の傍にいてくれるっ…てっ約束っ……」




それでもその時を思い出してしまうと、やっぱり私の涙はどんどん溢れて止まらなかった。


言葉にすると、それはますます叶わない夢なんだと気付いてしまって…胸が苦しくなる。
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