オサナナジミ
「ありがとうございました」
店員の慣れた声を聞き
店を後にした。
何回も何回も
確認した。
少年誌なんて初めて買ったもん。
家に帰る足取りが
次第に軽くなってゆくのがわかる。
「里佳子」
振り返れば笑顔の
翔がいた。
翔は自転車を降りて
あたしの隣を歩いた。
あたしわ、
気づかれないくらいに
間をあけた。
「ジャンプ買った?」
「うん、これでしょ?」
鞄からジャンプをだして翔の自転車のかごにいれた。
「せんきゅ!」
夕焼けに染まる翔の笑顔。
目を反らしたら
あたしの気持ちが
翔に伝わってしまいそうだから
同じように笑った。
「……うん」
ただひとつの願い事。
この恋が
叶わなくたっていい、
叶わなくていいから、
この夕焼けの中
二人だけの瞬間…
時が止まればいいって
本気で思った。