霧の獣



俺は少し驚いたが、
「はい確かにこいつです。」
と、何も聖者に悟られないように
顔色一つ変えずに答えた。



『どうか隠さないで。事実のみ仰って下さい。
我々はあなたの敵ではありません。』
と聖者は首をかしげて言った。



「え?」
俺は、聞き返す。



『本当はものすごく心配・・・なのでしょう。』
聖者は穏やかに微笑むとそう言った。



確かに、その通りだ。
俺は今、一分一秒でも早く夢人の無事を確認したかった。



「・・・・・・・・・・・。」
俺は何も答えることが出来なかった。



『心配なさらないで下さい。
夢人さんはまだ生きております。』
聖者は言った。



「本当ですか?信じてもいいんですか?
あいつは、今どこに居るんですか?」
夢人の無事がわかり俺の表情はきっと
喜びに満ちていたに違いない。



『会いたいですか?』
聖者は問いかけてきた。
そんなの、言うまでもないことだった。



「もちろん、会いたいです。」
俺は言った。



『わかりました。では・・・。』
と言って今までの聖者とはさらに違った別の聖者が
俺の手首を掴んだ。



「え?」
俺は何をするのか全くわからなかった。
次の瞬間、俺は聖者に連れられて、
深い湖の中へと入って行ったのだった。





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