joker ~欠片~
うさみみの男
地図の分かりにくさと記憶の曖昧さのお陰で、近くにあるはずの木に辿り着くまでずいぶんがかってしまった。
姉は凍えていないだろうか。
そんなことを考えていると、木の下に到着した。
二十歳を迎えようとする今でも、幼いときと同じようにその木に圧倒された。相変わらずの巨木。
その根元には人が入れるくらいの窪みがいくつかある。
きっと姉はその窪みに隠れているはず…
「お姉ちゃーん、私、キイだよ。」
1つ1つの窪みに近づき、小声で声掛ける。
しかし返事はない。
そして最後の窪みに近づいた時、背後に人の気配を感じた。
「……お姉、ちゃん?」
返事はない。
振り返ると、そこにはフードを被った人間が立っていた。
しかし、そのフードを突き破るようにその頭の上には2本の長い耳が立っていた。
「い、いゃ」
叫ぼうとすると、その手で口を塞がれた。
「怪しい者ではありません。」
男の声だ。
「あなたは慧様の妹、キイ様で宜しいですね?」
返事が出来ない私は、首を縦に振った。
「では、落ちついて、けして叫んだりしないで下さいね。」
すると私の口は解放された。