ベニとでも名付けよう
宿へ向かうバスの中で母と私は終始無言だった。
私は外の景色に必死にしがみついていたし、母は母で言葉を取り上げられたかのように、口を半開きにしてバスの中で漂っていた。
一本の飛行機雲が空を横切った。
空が広いせいかどこまでも続いて、中々消えることはなかった。
その飛行機雲を指でなぞっていくと今よりももっと綺麗な世界に、明るい未来に行ける気がした。
気がつけば2時間ほどバスにゆられていた。
森の中に迷いこんだように一軒だけぽつんと立っているレストランの前に私たちは立っていた。
「すごいいいところだね。」
弾んだような声で母が言うと、私も嬉しくなって「そうだね。」と笑顔になった。