ベニとでも名付けよう


宿は懐かしい匂いがする。

木の匂いだろうか、風の匂いだろうか。


どっちでもいいが、とにかく懐かしい。


母は終始、口を開けていた。


昼夜問わずごみごみとした都会で時間に追われ、日常をこなしている母にとってここは異次元だ。



時の流れが目で見えるほど時間がゆっくり流れる。



そんな母を見て、私は母をここに誘って良かったと心から思った。


グアムや、サイパンとかいかにもな常夏の楽園よりも、こんなに近くに異次元があることを母に教えたかった。


いつもありがとう。母さん。
< 15 / 29 >

この作品をシェア

pagetop