ベニとでも名付けよう
宿のフロントでは、従業員か客かわからないほどラフなシャツ姿のおじさんが迎えてくれた。
「藍橋さんですね?いらっしゃいませ。長野は初めてですか?」
「はい。初めてです。とてもいいところですね。いつもの風景とはまったく違うんだもん。違う世界に来たみたい。」
気のせいか母はいつもより饒舌だった。
「紛れもなく同じ日本ですよ。」
口に蓄えた髭と目がなくなる笑顔がいかにもペンションのオーナーだ。
私と母はそのジャムおじさんに荷物を預けて、ロビーのソファーに腰掛けた。
「楽しくなりそうね?」
「そうだね。」
こんな一時が凄く幸せに感じた。