ベニとでも名付けよう
その夜、私はこの思いを母に直談判することにした。
女手一つで私を育て上げた母は、夏も冬も関係なく出版社で忙しく働いている。
私のために時間を惜しんで働いているのはわかってはいるが、母もたまには親子水いらずで避暑地へ旅行など生きたいだろう。
私は表紙に長野と大きく書いたパンフレットをテーブルに置き、母の帰りを待った。
「ただいま。」
母が帰宅したのは21時を少し過ぎた頃だった。
「おかえり。あのさぁ今年は夏休みとれそうなの?」
「休み?うーん、1週間くらいならね。それがどうかしたの?」
「いや、これ。長野に旅行なんてどうかと思って。」
母はパンフレットを手に取り、しばらく眺めると、笑顔で頷いた。