冬に降る涙の雨。
傘を差し出す私に対して男の人は、
「名前は……?」
と、尋ねて来た。
怪しすぎる。
すんなり名前を教えていいものか、と悩んだ末に、私はこう言った。
「……マコ」
私の本当の名前は麻琴。
小さい時はみんなに“マコ”と呼ばれていた。
だから、嘘をついたワケではない。
「マコ…か。ありがとう…」
そう言って不器用に笑う男の人。
笑うの、苦手なのかな……?
そんな風に思った。
「あなたは……?」
私が彼を傘の中に入れながら尋ねると、
「……“カナ”」
と、彼は答えた。
カナ………
何とも女の子らしい名前だ。
「俺はマコを…迎えに来たんだ…」
突然、おかしなことを言う……カナ。
今日、初めて会ったばかりの人に“迎えに来た”とか言われても………
だけど、その瞳は嘘をついてるようには見えなかった。