コルニクス

「まあ戻りたくないなら無理に戻って来いなんて言わねぇよ。
今日会ったことは秘密にしとくから」

男性は「ただ…」と言ってから唾を飲み込む。喉仏が上下した。

「皆心配してた。とくにオルビス大佐はな」

「大佐…」

聞き慣れない単語をつい声にしてしまってからはっと気づく。

大佐って軍の階級だ。

怪我人の上司なんだろうか。

「だから、大佐にだけはお前が生きてることを伝えてもいいか?」

「いいや」

怪我人は息を整え、コルニクスの左翼の上に胡坐(アグラ)をかいて座った。

「もう帰るよ」

朝日の光を背に受け、衝撃的な言葉を、怪我人が言い切る。

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