コルニクス
私はクリュさんに背を向け、走る。
ドタドタと足音が鳴り、ギシギシと床が鳴り、
その物理的な音のハーモニーが私を余計に焦らせた。
5秒ほどたった曲がり角で、クリュさんに何も言わず来てしまったことを思い出す。
マナーとして何か言っておこうと思い振り返り、叫んだ。
「あの、ありっ…いっ…きます!」
余裕が無いなら無理に挨拶しなくてもいいのに。
結局ありがとうも行ってきますもまともに言えなかった。
いくつだ、私は。
壁に左肘をつき、胸のど真ん中に拳を置き、かぶさり抱えるようにして立っていたクリュさんは、
拳を胸から剥がし、顔はあげずにそれをひらひら、宙を泳がせた。