コルニクス
錆びた鉄の鍋がどうにも儚げにかかっている。
左にあるベッドには、裂けたシーツがまとわりつき、
つぎはぎだらけの毛布は、穴が開いていた。
埃っぽく湿っぽい、どこかじめじめした熱気。
部屋の真ん中の腐った木製のテーブル。
脚が折れ、剥げた床に転がっている椅子。
虫に喰われ、役割を果たさないほどスカスカになった梁(ハリ)。
不安定に傾いて立っていて、今にも倒れそうな引き出しのついた棚。
壁に貼られた板と板の隙間から抜けていく風。
天井に巣を張っている蜘蛛。
そのどれもが、俺に告げている。
人はいない。
それどころか、人が住んでいる形跡すらない。
まさか、引っ越したのか?