コルニクス
「今すぐは…ちょっと。だって俺、ほら…元帥にまた呼ばれてるし」
前を歩くクロが、ちらっと振り向いて、「ほんとだよ?」と口を尖らせる。
誰も疑ってないって。
「じゃあ元帥の用事が済んだら…」
「はいはい分かりましたあー」
口うるさくアンジェリカ夫人と会うことをすすめる私の言葉を、
クロが人差し指を耳に突っ込んで本当にうるさそうに流す。
そんなことで笑って細めた目をまた開くと、
屋上からの殺風景な帰り道の景色が、さっきよりも綺麗になった気がした。
フィルターが外れて一層クリアになったような。
私はきっと今、心の底から笑えているんだなと勝手に解釈した。
「コバルト、聞こえたぞ」