コルニクス
すると元帥は「がはっ」と、豪快に咳をした。
え…?
えっと、ちょっと待って。
倒れこんで咳をして。
…今、何かを予想してしまった。
元帥の顔が苦痛に歪んでいたら、俺のこの予想は間違いないと思い、元帥を窺った。
その時、目に入った…赤。
その赤は鮮やかではあったが、深みのある紅(クレナイ)で、"真紅"というのがふさわしいと思った。
血を吐いていたのだ、元帥が。
その血が、俺のスーツ地のジレベストからはみ出た白いカッターシャツを染めていた。
「私か」
元帥が俺に抱きつきすがりつく。
耳元で発せられた、現実を難なく受け入れた声に、実感というものが一目散に逃げて行った。