高天原異聞 ~女神の言伝~
小声で言う美咲に、慎也は小さく吹き出した。
「それでうるさくしてれば、意味ないと思うんだけど」
初めて出会ったときのことも含めての言だ。
「生意気ね、年下の分際で」
「美咲さんが年上らしくないから」
冗談めかして笑う慎也を余所に、美咲が再び歩きだす。
「あれ、怒ったの、美咲さん?」
「怒ってません、本を戻しにいくの」
「じゃ、手伝うよ」
言うなり、慎也は空いている方の手でさらに数冊の本を美咲の眼前から取りのぞいた。
「いいわよ、これは私の仕事なんだから」
「俺も図書委員だからね。お手伝いします。美咲さん、本落としそうで恐いから」
「今日は休みじゃないの」
「そうだよ。美咲さんのためだけのボランティアに感謝して」
そう言うと、本の背表紙を確認しながらさっさと書架へと進んでいく。
取り残された美咲は、それ以上反論することもできずに、しばし立ち尽くすと、大きく息をついてから、自分も返却本を戻すために、歩き出した。