高天原異聞 ~女神の言伝~
「美咲さん、お腹減った」
真剣な声でそう言う慎也に、美咲は先ほどの甘やかな時間が嘘のようで、思わず吹き出してしまった。
時計に目をやると、まだ六時だ。
「ご飯作るまで三十分くらい待てる?」
「そのくらいなら待てる」
「じゃあ、先にシャワー浴びてきて。その間に作っとく」
「了解。タオル貸してね」
「脱衣所の戸棚に入ってるから好きなの使って」
慎也は起きあがってデイパックから着替えを出すとそのままバスルームへと向かった。
美咲は水の流れる音が聞こえると、身体を起こしてベッドの下に脱ぎ捨てたままの部屋着を着てキッチンへ向かった。
炊飯器の早炊きスイッチを入れ、冷蔵庫を開ける。
鮭の切り身と絹ごし豆腐、昨日の朝漬けておいた浅漬けと卵、納豆、カットフルーツにサラダ用の野菜が目に入る。
「食べ盛りの高校生って、こんなものでいいのかしら……」
先に好き嫌いを聞いておけば良かったと思ったが、空腹なら何でも食べられるだろうと、美咲はとりあえず鮭の切り身をコンロに備え付けられているグリルに入れた。
味噌汁用の鍋を出して火にかけ、出汁パックを入れて、蓋をする。
サラダ用の野菜はすでに切っておいてあったものをサラダボウルにきれいに盛りつける。
豆腐は冷や奴用なので、小鉢に入れて小口切りのネギを散らす。
残ったネギは溶いた卵に混ぜ、味を調えて卵焼き用の小さなフライパンで焼いて巻いていく。
切り終わって皿に盛ったところで味噌汁用の鍋が沸騰してカタカタ揺れた。
出汁パックを取り出し、味噌を溶くと乾燥具材を入れ、一煮立ちさせて火を止める。
鮭を手早くひっくり返して焼き目をつけると、卵焼きの横に添える。
浅漬けを取り出し小皿に盛る。
テーブルを拭いて食卓を整えると、ちょうど炊飯器の炊きあがりの電子音が鳴った。
同じタイミングで、慎也も頭を拭きながら出てきた。