高天原異聞 ~女神の言伝~

 入学式の日に出会ってから、慎也とは毎日顔を合わせる羽目になっている。
 図書委員となった彼は、当番のときは勿論、当番でない日でさえ、足しげく図書館にやってくる。
 そうして、何かと口実を見つけては一人で作業をしている時を見計らって美咲に話しかけてくる。
 新しく入った司書が、それほど珍しいわけでもないだろうに。
 ここは共学だから、女が珍しいわけでもない。
 美咲だとて、話しかけられて嫌なわけではないが、何事にも限度というものがある。
 慎也の態度は、いくら鈍くても気づくほど、あからさまだ。
 近づく距離や、見つめる眼差しや、甘やかな口調。

 だからこそ、困る。

慎也も弁えていて、人目のあるところではあからさまな態度をとったりはしないが、ここは公共の場であり、人の集まる図書館であり、美咲の職場なのだ。
 いつ誰に見られてもおかしくない。
 だから、ここ一週間、美咲は慎也の姿を見かけると、極力おしゃべりの許されないカウンターか司書教諭のいる事務室へ逃げるように移動するようになった。


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