高天原異聞 ~女神の言伝~

「――」

 こみあげる様々な感情に、美咲は逃げるように書庫に飛び込んだ。
 内鍵を閉めて奥に走る。
 叫び出したいのに、何を言葉にすればいいのかわからないもどかしさ。
 まるで自分の中に何人もいるように、相反する。

 嬉しいのに、悲しくて。
 愛しいのに、切なくて。

 もどかしさで、胸が苦しい。
 いっそ大声で泣いてしまいたい。
 大切なことを忘れているような後悔でどうにかなりそうだった。

「――」

 鍵の回る音が小さく聞こえて、続いて扉の開く音がした。
 そこで、慎也が以前山中から鍵を預かっていたのを思い出した。
 近づく足音。
 美咲ははっとして、書棚の間に隠れ、潤んだ目元を指先で拭った。
 呼吸を整える。

「美咲さん? どうかした?」

 背後からかかる慎也の声に、努めて明るく答える。

「何でもないの――」

 振り返って、制服のブレザーのネクタイに視線を落とす。
 それから、足下に。
 今その顔を見てしまったら。
 その腕に縋り付いてしまったら。
 もう放せない。
 離れては、生きられない。
 そんな気がした。
 それなのに。






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