高天原異聞 ~女神の言伝~
「美咲さん――」
迷うことなく触れてくれるその手を。
強く抱きしめてくれるその腕を。
どうして、いつか失ってしまうように感じるのだろう。
「キスして……」
小さな呟きを聞き逃さず、慎也は上向いた美咲の唇に自分のそれを重ねた。
すぐに舌が絡まり、キスは激しいものへと変わる。
慎也の首に腕を回し、夢中で求める。
いっそこのまま溶け合ってしまえたら。
離ればなれになってしまうこともないのに。
足の力が抜けて、美咲は後ろに仰け反った。
支えてくれる慎也の腕がなければ倒れていたかもしれない。
美咲が倒れないように壁に押しつけ、首筋に顔を埋めながら、慎也はそれ以上の動きを止めた。
「このままだと、止まらなくなる――」
熱い吐息が首筋にかかる。
「どうする? 俺は平気だけど、美咲さんが嫌でしょ?」
辛うじて、理性が押しとどめる。
「……ここじゃ、駄目……」
乱れた息で、美咲は言葉を絞り出す。
「――うん」
首筋を強く吸って約束のように印を付けると、慎也は美咲から身体を離した。
「早く帰ろう。続きはアパートでね」
腕を引かれて抱きかかえられるように美咲は書庫を出た。