高天原異聞 ~女神の言伝~
「妹の神霊を見つけただと?」
「黄泉返ったために、記憶は失われておりますが、おそらく」
「――おそらく? しかとはわからぬというのか」
「神気が、感じ取れませぬ。只人でないのはわかります。我ら山津見の国津神にとって特別な方だということしか。となれば黄泉へ降られた妹比売しかおりますまい」
「連れて行け」
「は?」
「今すぐ私が確かめる。妹の元へ、連れて行け!」
立ち上がりざまに、濡れ羽色の長く艶やかな髪が揺れる。
「お待ちください。その前に、これも申し上げにくいのですが……」
「許す。申せ」
逸る気持ちを抑えつつ聞いていた女神の顔色がさっと変わる。
「なんだと? あの憎き天津神も妹の傍らにいるというのか!?」
「は、天津神で在られることは間違いなく。ですが、こちらも神気を感じ取れませんでした。お二方とも奇妙な気の揺らぎは感じるのですが……」
困惑したような男の声に、女神は拳を震わせた。