高天原異聞 ~女神の言伝~
「今日は一緒に帰れない」
カウンターに来て、珍しくそう言った慎也に、美咲は内心驚いた。
昼休みが始まったばかりなので、学生はいない。
一般の利用者も午前中に帰り、まだ来ていなかった。
またタイトルのわからない本を借りに来た慎也の貸し出し処理をしながら、さりげなく聞く。
「何かあるの?」
「――三者面談」
つまらなそうに言う慎也は小さく息をついた。
「うちの親、外資系の会社に勤めてるって前言ったよね。海外出張も多くて、空いてる日がとれないんだ。で、今日いきなり空いたから、今日面談ってことになったんだ。しかも、七時からって」
「仕方ないわよ。じゃあ、今日は親御さんと帰ってご飯食べれるのね。よかった」
「ちっともよくない。美咲さんのご飯が食べたい。どうせ外食になるに決まってる。うちの母親料理下手だし」
「そういうこと言わない」
レシートを本に挟み、差し出すと、慎也は本ではなく、美咲の手を掴んだ。
「――」
「夏休みになったら、また美咲さんとこ泊まっていい? ずっと一緒にいたい」
「――お家の方が、変に思うんじゃ」
「帰ってこないのに、変に思うわけ無いよ。気づきもしないさ。帰ってきたって、夜中で、着替え取りに来るだけだよ。簡単なメールがきて終わり。『チェーンかけるな』って。俺がもう何年も前から面倒だからチェーンかけてないのにさえ気づいてないし、大丈夫」