高天原異聞 ~女神の言伝~
「大丈夫ですか?」
斉藤もしゃがみ込み、目線を合わせる。
「大丈夫です、久々に走って、ちょっと、力が……」
そうは言ったものの、身体は恐怖に震えていた。
数分して、綾が戻ってくる。
「だめ、それらしい人影はなかったわ」
「角を曲がったところであきらめたか、おまえの勇ましい足音で逃げたのかな」
「可哀想に、怖かったでしょう? 家で少し休んでいくといいわ」
まだ震えを止められない美咲は、素直に綾の言葉に従った。
外観の日本家屋を裏切らず、家の中は、畳敷きの和室だった。
その上に上品なカーペットが敷かれてあり、ソファとテーブルが置かれている。
一昔前の和洋折衷な家具が、意外にもしっくりと合っていた。
「座ってください」
「紅茶でいいかしら」
「ありがとうございます。本当に、とんだご迷惑を」
「何言ってるの? 良かったわ、外に出てみて」
綾はちょうど二階のベランダで忘れていた洗濯物を取り込んでいる途中だった。
走ってくる足音がただごとではない様子に聞こえたので、父親を呼んで外に出てきたところを、角を曲がって走ってくる美咲と鉢合わせたのだという。