高天原異聞 ~女神の言伝~
「あ――」
背の高い、愛しい背の君の姿を見つけると、姉比売は歓喜の声を上げてかけより、その胸に飛び込んだ。
すぐにくちづけが交わされる。
そのまま、草の上に倒れ込んでいく。
妹比売は驚いて目を見張った。
すでに自分のことなど目に入っていないようだ。
頬を染め、静かにその場を後ずさる。
それから、急いでその場を走り去る。
半月ぶりだと言っていたから、これから何が始まるのかはまだ夫のいない妹比売でもわかる。
だが、姉のそのようなところを見てしまい、動揺する。
幸せそうな姉を見て、嬉しい反面、複雑だった。
いつか自分にも、姉のように愛する方が見つかるのだろうか。
走りながらそのようなことを考えていると、突然、大きな手が自分の腰を捕まえた。
驚きのあまり、身体が竦み、声が出ない。
「大丈夫か? 誰かに追われているのか?」
心配げな声が上からかかる。
咄嗟に袖で顔を隠しつつ、おそるおそる首を横に振る。
「追い立てられるように走ってくるから、不埒な輩に襲われているのかと勘違いした」
男神は、妹比売から手を放し、走ってきた方を向く。
「この先に、何かあるのか」
「いいえ。この先は、何もございませぬ。ご遠慮くださいませ」
必死で答える妹比売に、何やら思うところはあったものの、男神はそれ以上は問わなかった。