高天原異聞 ~女神の言伝~

「麗しき乙女よ。そなたの名を、教えてくれ」

「――大山津見命《おおやまつみのみこと》の娘、神阿多津《かむあたつ》と申します」

 咄嗟に、姉比売の名を答えてしまう。

「そなたが大山津見命の娘御か。では、木之花咲耶比売《このはなさくやひめ》と呼ばれているのはそなたか?」

「それは――」

 姉の名だと言おうかと迷い、顔を上げるが、言葉を無くす。
 頬に触れた手が、あまりにも優しくて。
 涼やかな目元が、麗しい。
 とおった鼻梁。
 唇は柔らかく笑みを刻んでいる。
 国津神ではない。
 神気が、違う。
 この方は――天津神だ。

「噂通り、咲く花のように美しい――」

 何という美しい方だろうと、妹比売は思った。
 天津神というのは、皆このように美しいものなのか。
 目を奪われる。
 本当に自分の目の前にいるのか、手で触れて確かめたい衝動にかられた。





< 138 / 399 >

この作品をシェア

pagetop