高天原異聞 ~女神の言伝~
「麗しき乙女よ。そなたの名を、教えてくれ」
「――大山津見命《おおやまつみのみこと》の娘、神阿多津《かむあたつ》と申します」
咄嗟に、姉比売の名を答えてしまう。
「そなたが大山津見命の娘御か。では、木之花咲耶比売《このはなさくやひめ》と呼ばれているのはそなたか?」
「それは――」
姉の名だと言おうかと迷い、顔を上げるが、言葉を無くす。
頬に触れた手が、あまりにも優しくて。
涼やかな目元が、麗しい。
とおった鼻梁。
唇は柔らかく笑みを刻んでいる。
国津神ではない。
神気が、違う。
この方は――天津神だ。
「噂通り、咲く花のように美しい――」
何という美しい方だろうと、妹比売は思った。
天津神というのは、皆このように美しいものなのか。
目を奪われる。
本当に自分の目の前にいるのか、手で触れて確かめたい衝動にかられた。