高天原異聞 ~女神の言伝~
それは、目の前の天津神も同じだったらしい。
躊躇う妹比売と違い、天津神は衝動を堪えなかった。
空いているもう一方の手を伸ばし、妹比売の白く滑らかな頬に触れる。
そうして、引き寄せながら、自らも顔を近づける。
「――」
「――」
唇が触れたとき、喜びに身体が震えた。
うっすらと開いていた唇に、舌がするりと入り込んでくる。
舌が絡み合い、強く吸われると、甘い痺れに身体が疼いた。
今くちづけをやめたら、死んでしまう――そう思った。
くちづけが深く、激しくなるにつれ、脚の力が抜けていく。
天津神が再び腰を引き寄せ抱きしめると、その力強さに我に返り、逃れようと身動いだ。
「比売――?」
「お離しくださいませ……このようなところで……」
恥じらって顔を隠す仕草がまた天津神の情欲をかきたてるのだが、妹比売は羞恥でそれどころではない。
天津神は渋々とではあるが、抱きしめていた腕を緩めた。
そして、跪いて妹比売の潤んだ淡い色の瞳を見つめながら真摯に告げた。
「そなたを妻に迎えたいのだが、よいだろうか」
突然の求愛に、妹比売は咄嗟に言葉を返せない。
しばし唖然とし、それから、頬を染め、辛うじて答える。
「父に――父にお尋ねになってくださいませ」