高天原異聞 ~女神の言伝~
「な、なんでまだいるの!?」
「美咲さんが出てくるの、待ってたから。暗いから、送っていくよ」
「お、送らなくていいわよ。遠くないから」
「じゃ、美咲さん、先行って。俺無事に帰れるか後ろついてくから」
「――」
どうやら美咲を一人で帰す気は、慎也にはないらしい。
息をつくと、美咲はさっさと歩き出した。
慎也はその後ろを少しだけ離れて歩いてついてきた。
左に曲がれば大通りに出るが、あえて美咲は直進した。
大通りでは人目につきすぎる――そう考えたからだ。
しかし、人通りの少ない路地を足早に歩いても、慎也は一向に構わないらしく、たちまち美咲の隣に追いついた。
「どうして隣に来るのよ!?」
「誰もいないから。人に見られたら困るんでしょ? 今なら誰もいないよ」
「誰か来たらどうする気?」
「後ろに下がる」
ああいえばこういう慎也に、美咲はすでに逆らう気力をなくしつつあった。
しかも、大好きな本の話題をふるものだから無視もできない。
周りを気にしつつ応える美咲に、慎也は声を立てずに笑った。
「美咲さんは心配性だなぁ」
「――」