高天原異聞 ~女神の言伝~
帰り道、美咲は慎也と一緒にいつもの道を通ることを一瞬だけ躊躇った。
昨日のことを思い出したからである。
「どうしたの、美咲さん」
相も変わらず目聡い慎也は、美咲の微妙な変化をすぐに感じ取った。
昨日、見知らぬ誰かに追いかけられたことを、美咲は慎也に話していなかった。
斉藤親子の労りと、慎也に逢えた喜びで、すっかり忘れていたのだ。
「何でもないわ。早く行きましょう」
進もうとする美咲を慎也が腕を掴んで引き留める。
「何かあったんでしょ。話して」
「何でもないわ。手を放して。誰かに見られちゃう」
見上げると、真っ直ぐに美咲を見据えている。
「じゃあ、話して。でなきゃ、このまま歩いてく」
「――」
こういう顔をしているとき、慎也は一歩も譲らない。
「わかったわ。歩きながら話すから、手を放して」
ようやく手が放される。
足早に歩きながら、美咲は昨日の出来事を大げさにならぬように話した。