高天原異聞 ~女神の言伝~

「はい」

 グラスを受け取った美咲は、そのまま飲み干した。
 冷たい水が、心を落ち着けてくれた。
 空になったグラスをテーブルの上に置くと、慎也は美咲の前に膝をついて視線を合わせた。
 少し赤くなってしまった手首を優しくさする。

「約束して。一人の時は、もう絶対あそこは通らないって」

「……約束、する……」

 ほっとした顔で、慎也は身を乗り出して美咲を抱きしめた。
 いつもの優しい慎也で、美咲は泣きながらぎゅっとしがみついた。

「ごめんね、美咲さん。好きだよ」

 背中をあやすように撫でる手も、優しくて、美咲は安堵した。
 しばらくそうして抱き合っていた二人だが、

「やばい」

 徐に慎也が呟く。
 身体を離して慎也を見ると、慎也は困ったように美咲を見つめている。

「泣いてる美咲さんも可愛いから、このままだと、俺の理性がもたない」

 唇に、ついばむような優しいキスが落とされる。

「このまま帰った方がいい? それとも、いていい?」

「……帰らないで」

 美咲の言葉に、慎也が嬉しそうに問い返す。

「ホントに?」

「でも、優しくして。さっきみたいなのはいや」

「了解」

 もう一度、今度は深くくちづけられる。
 そして、部屋の明かりが消えた。



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